- 足場の計算書を作成しないといけないけど…
- どうやって計算すればいいか分からない
- 足場の強度計算方法を具体的に教えて!
高所で作業を行うために必要な工程である足場工。仮設の足場材を組み立てて、作業床を確保する工事です。ゼネコンに入社してすぐに足場の強度計算を任されて、悩んでいる若手現場監督も多いはず。
私自身、新卒でゼネコンに入社して1年くらい経った時に、橋脚に登るための足場を組み立てる工事の担当者になり、足場の強度計算書チェックを経験しました。そもそもどういう手順で足場の強度計算をしているのかが分からず、手探り状態で確認したことがあります。
そこでこの記事では、未経験者でも迷わずに足場の強度計算ができるように、足場の計算手順を分かりやすく解説します。この記事を読めば、「足場の計算書をミスなく簡単に作成する方法」が分かります。
私が普段どんな手順で足場の計算を行っているのかをまとめました。足場の強度計算を効率よくしたい方はぜひ最後まで読んでください。
足場の強度計算方法
足場の強度計算は、自重、積載荷重、風荷重などの荷重条件を考慮して計算を実施します。足場の強度計算は、以下の手順で実施しましょう。
- 鉛直荷重の算出
- 鉛直荷重の検討
- 風荷重の算出
- 風荷重の検討
鉛直荷重の算出
鉛直荷重の算出では、足場部材の自重と積載荷重の合計を計算します。
足場に使用する材料は、種類・寸法が製作メーカによって異なります。足場に使用する材料の重さをカタログ等で確認し、各材料を何個使うかを図面から読み取って総重量を計算してください。
積載荷重は、足場の作業床にかかる作業員や仮置きする資機材、工具などの質量が該当します。足場の構造や使用する部材によって積載可能な荷重が異なるので、構造や種類に応じた積載荷重を設定してください。建設業労働災害防止協会の「足場の組立て等作業の安全」では、以下のように最大積載荷重が規定されています。
足場の種類 | 最大積載荷重(1スパンあたり) |
---|---|
単管足場 | 400kg |
クサビ緊結式足場(足場幅:900mm以上) | 400kg |
クサビ緊結式足場(足場幅:400mm以上900mm未満) | 200kg |
標準わく組足場(縦わく幅:1200mm) | 500kg |
標準わく組足場(縦わく幅:900mm) | 400kg |
簡易わく組足場 | 250kg |
ブラケット一側足場(単管) | 150kg |
上記の最大積載荷重は、法律上定められている上限値です。上記の値を用いて構造計算して足場の許容値を超えた場合は、超えないように最大積載荷重を設定する必要があります。
鉛直荷重の検討
足場の種類がシステム足場か単管足場かによって、鉛直荷重の検討方法は異なります。
システム足場の場合は、各足場の組立条件ごとに許容荷重が決まっています。よって、足場の各部材毎に荷重の検討を行う必要はありません。算出した鉛直荷重の合計が、システム足場の許容荷重を上回っていないかどうかを確認してください。システム足場の許容荷重の一例を以下に示します。
システム足場の種類(組立条件) | 許容荷重 |
---|---|
NDシステム1800(桁行方向:先行手すり) | 18kN/本 |
NDシステム1800(桁行方向:先行手すり+つなぎ材) | 25kN/本 |
NDシステム1800(桁行方向:ブレース) | 22kN/本 |
簡易建枠 | 17.15kN/本 |
3Sシステム(φ48.6)(H=1200mm) | 49kN/本 |
3Sシステム(φ48.6)(H=1800mm) | 25.5kN/本 |
3Sシステム(φ60.5)(H=1200mm) | 69.8kN/本 |
3Sシステム(φ60.5)(H=1800mm) | 50kN/本 |
単管足場の場合は、以下のそれぞれの部材について検討する必要があります。
- 足場板
- 腕木単管
- 布地単管
- 建地単管
各部材において、せん断応力度や曲げ応力度、座屈応力度、たわみなどの値が許容値を上回らないかどうかを確認してください。
風荷重の算出
風荷重の計算式は、以下の通りです。
上式より、設計用速度圧、風力係数、受圧面積をそれぞれ計算する必要があることが分かります。
設計用速度圧
設計用速度圧の計算式は、以下の通りです。
基準風速と台風時割増係数は、地域によって値が決まっています。以下の表を参考にしてください。
日建リース工業(株) 仮設資材カタログ
都道府県名 | 台風時割増係数 |
---|---|
山口県・福岡県・佐賀県・長崎県・熊本県・大分県・宮崎県 | 1.1 |
鹿児島県・沖縄県 | 1.2 |
その他の都道府県 | 1.0 |
地上Zにおける瞬間風速分布係数は、地上からの高さと地域区分によって決定します。以下の表を参考にして値を求めてください。
日建リース工業(株) 仮設資材カタログ
近接高層建築物による風速の割増係数は、(社)仮設工業会発行「風荷重に対する足場の技術指針」を参考に求めます。高層建築物からの至近距離Lに対して、以下の値とすることが定められています。
(1)近接して高層建築物がない場合、もしくは下図のL1を超える場合
EB=1.0
(2)高層建築物からの至近距離Lが、下図のL1以下となる場合(地上からの高さZ≤H/2のとき)
L2 < L ≤ L1 : EB = 1.1
L3 < L ≤ L2 : EB = 1.2
L4 < L ≤ L3 : EB = 1.3
日建リース工業(株) 仮設資材カタログ
上図のW+Dは、近接高層建築物の幅Wと奥行Dの合計です。図示されたW+D以外の値については、直線補完により距離L1〜L4を求めます。
風力係数
風力係数の計算式は、以下の通りです。
第2構面の風力低減係数は、以下の式で定められます。φは養生材の充実率です。
養生材の基本風力係数は、下図をもとに決定します。足場に使用する養生材の充実率φに対応する基本風力係数を求めてください。
日建リース工業(株) 仮設資材カタログ
代表的な養生材の充実率と基本風力係数の値は、下表の通りです。
養生材の種類 | 充実率 | 基本風力係数 |
---|---|---|
メッシュシート(1類) | 0.9 | 1.87 |
メッシュシート(2類) | 0.71 | 1.58 |
垂直養生ネット(15mm目合) | 0.2 | 0.31 |
垂直養生ネット(30mm目合) | 0.1 | 0.14 |
防炎シート | 1 | 2 |
養生材の縦横比による形状補正係数Rは以下の表の通りです。ここで、Hは養生材の全体高さ、Bは養生材の全体幅とします。
縦横比の値 | 形状補正係数 |
---|---|
2H/B ≤ 1.5 | 0.6 |
1.5 < 2H/B < 59 | 0.5813 + 0.013 × 2H/B – 0.0001 × (2H/B)^2 |
59 ≤ 2H/B | 1 |
建築物に併設された足場の設置位置による補正係数は、以下の図表をもとに求めます。
日建リース工業(株) 仮設資材カタログ
風荷重の受圧面積
風荷重の受圧面積の計算式は、以下の通りです。
上式より、風荷重を支える壁つなぎ又は単管控え1箇所につき支える風荷重の受圧面積を求めれば良いことが分かります。
風荷重の検討
風荷重の検討では、算出した風荷重が壁つなぎや単管控えなどの許容荷重を上回らないかどうかを確認します。
壁つなぎの場合は、壁つなぎ用アンカーと壁つなぎ本体の許容荷重を比較して、小さい方の値を許容荷重として検討しましょう。また(社)仮設工業会発行「風荷重に対する足場の安全技術指針」より、風荷重の検討に用いる許容荷重は3割増で計算してください。
単管控えの場合は、使用するクランプのスベリ耐力と控え単管の座屈応力の検討を行います。壁つなぎの時と同様に、クランプのスベリ耐力は3割増で計算をしてください。
足場の強度計算をExcelで自動化する方法
鉛直荷重と風荷重のそれぞれについて、足場強度計算を自動化するExcelシートの使用方法を解説します。
本シートは、以下の4つの用途に分かれています。
- システム足場の検討
- 単管足場の検討
- 風荷重の算出
- 風荷重の検討
上記の他に、マスターデータ用のシートがあります。固有の値をマスターデータにあらかじめ用意しておくことで、計算の手間を大幅に省くことが可能です。既に固有の値を入力しているので、基本的にマスターデータを触る必要はありません。
Excel最強の教科書[完全版] 藤井直弥 / 大山啓介他のシートの値を参照する(前略)
いろいろな表で何度も使用されるデータ(例えば、商品やサービスの一覧表など)は独立した専用のシートにまとめておき、各シートから参照するようにします。そうすれば、名称や価格の入力ミスを未然に防ぐことができます。
なお、他のシートを参照するようにしておけば、名称や価格が変更された場合でも、参照先シートの一箇所を修正するだけで、ブック内の全データを修正できます。もし各シート内で個別にベタ打ちしていた場合は、ブック中のさまざまな箇所に記載されている商品名を1つずつ検索して修正しなければなりません。しかし、そうした状況では、「修正し忘れ」というミスも発生してしまうでしょう。
システム足場の検討
システム足場の検討を行う際に必要な情報は以下の4つです。
- システム足場の種類
- 足場材の種類
- 足場材の個数
- 最大積載荷重
システム足場の種類によって、許容荷重が決まっています。足場材の種類と個数から自重を計算し、最大積載荷重と合わせた値が鉛直方向の仮設荷重です。足場の内側と外側で違う材料を使用している場合、それぞれ仮設荷重を計算する必要があります。内側の支柱、外側の支柱それぞれに対して以下の式が成立するかどうかを確認してください。
- 仮設荷重(自重 + 最大積載荷重) ≤ システム足場の許容荷重
Excelで作成した計算書の例は、下記の通りです。青枠で囲まれた部分にデータを入力すれば、自動で計算します。
数量の列は、検討する支柱に自重が作用する部材の数を入力してください。分担数の列は、対象の部材の自重を支える支柱の数を入力します。
システム足場の張出足場部の強度計算も対応可能です。張出足場部の仮設荷重を計算し、以下の式が成立するかどうかを確認します。
- 方杖単管に作用する軸力 ≤ クランプのスベリ耐力
- 方杖単管に作業する座屈応力 ≤ 方杖単管の許容座屈応力
- 張出足場部の仮設荷重 + 外側支柱にかかる仮設荷重 ≤ システム足場の許容荷重
Excelで作成した計算書は、下記の通りです。データの入力が必要なのは、青枠の部分だけです。
データを入力するセルは、データの入力規則を設定しています。
入力したデータは関数の引数[検索値]として使用するので、入力規則をあらかじめ設定することでエラーを防ぎます。
できるYOUTUBER式 EXCEL現場の教科書 長内孝平入力不要の「選択リスト」でさらに効率化(前略)
商品名など選択肢が限られているものは、リストを作成しましょう。[データの入力規則]ダイアログボックスからリストを設定します。引数[検索値]の候補をドロップダウンリストから選べるようにすることで、入力ミスを減らす仕組みが作れます。
単管足場の検討
単管足場の検討は以下の手順で行います。
- 足場板の検討
- 腕木単管の検討
- 布地単管の検討
- 建地単管の検討
上記の検討を行うために、本記事で紹介しているExcelシートではあらかじめデータ入力を行います。具体的には以下の通りです。
あらかじめデータを入力しておくことで、各部材を検討する際の計算条件欄を自動で埋める仕組みです。
足場板の検討
足場板の検討では、以下の式が成立するかどうか確認してください。
- 曲げ応力度 ≤ 足場板の許容曲げ応力度
- たわみ ≤ 足場板の許容たわみ量
Excelで作成した計算書は、下記の通りです。先ほどのデータ入力を終えた時点で自動で作成されます。
腕木単管の検討
腕木単管の検討では、以下の式が成立するかどうか確認してください。
- せん断応力度 ≤ 腕木単管の許容曲げ応力度
- 曲げ応力度 ≤ 腕木単管の許容曲げ応力度
- たわみ ≤ 腕木単管の許容たわみ量
Excelで作成した計算書は、下記の通りです。腕木単管1本あたりの仮設荷重を算出するために、各部材の数量と荷重分担数を青枠内に入力する必要があります。
布地単管の検討
布地単管の検討では、以下の式が成立するかどうか確認してください。
- せん断応力度 ≤ 布地単管の許容曲げ応力度
- 曲げ応力度 ≤ 布地単管の許容曲げ応力度
- たわみ ≤ 布地単管の許容たわみ量
- 布地単管にかかる荷重 ≤ クランプのスベリ耐力
Excelで作成した計算書は、下記の通りです。布地単管1本あたりの仮設荷重を算出するために、各部材の数量と荷重分担数を青枠内に入力する必要があります。
たわみがNGになっているのは、布地単管の許容たわみを3mmに設定しているからです。許容たわみの明確な基準が見つからないので、見つけた方は値を修正してください。
建地単管の検討
建地単管の検討では、以下の式が成立するかどうか確認してください。
- せん断応力度 ≤ 布地単管の許容曲げ応力度
- 曲げ応力度 ≤ 布地単管の許容曲げ応力度
- たわみ ≤ 布地単管の許容たわみ量
- 布地単管にかかる荷重 ≤ クランプのスベリ耐力
Excelで作成した計算書は、下記の通りです。建単管1本あたりの仮設荷重を算出するために、青枠内に数値を入力してください。
風荷重の算出
風荷重の算出を行うために、本記事で紹介しているExcelシートではあらかじめデータ入力を行います。具体的には以下の通りです。
これらのデータを入力することによって、以下のように風荷重を自動で算出できます。
風荷重の検討
風荷重の検討は、以下の2つのパターンについて実施することが可能です。
- 単管控えの場合
- 壁つなぎの場合
風荷重の検討をするために、本記事で紹介しているExcelシートでは以下のようなデータ入力を行います。
風荷重の抵抗を受けるために使用するのは、単管控えか壁つなぎのどちらか一方であることが多いです。しかし検討時の計算量は少ないので、本Excelシートではどちらも同時に検討を行います。
単管控えの場合は、下記の事項を検討します。
- 軸力 ≤ クランプのスベリ耐力
- 軸応力 ≤ 控え単管の許容座屈応力
実際の計算例は、以下の通りです。最初にデータ入力した時点で自動計算されるので、計算書に何かを入力する必要はありません。
壁つなぎの場合は、下記の事項を検討します。
- 風荷重 ≤ 壁つなぎor壁つなぎ用アンカーの許容荷重
壁つなぎは、グリップアンカーやセパレーターに接続して使用する場合がほとんどです。壁つなぎ本体の許容荷重だけではなく、接続用材料の許容荷重にも留意してください。実際の計算例は以下の通りです。
【風荷重の検討】で記入されている文字は、壁つなぎと接続用アンカーの許容荷重の大小によって自動で変わるので安心してください。
足場の強度計算方法を理解した上で計算を自動化しよう
この記事では、足場の強度計算方法を解説しました。足場強度の検討フローは以下の通りです。
- 鉛直荷重の算出
- 鉛直荷重の検討
- 風荷重の算出
- 風荷重の検討
紹介したExcelシートを使用すれば、上記のフローに基づいて自動で足場の強度計算ができます。Excelシートの用途は以下の通りです。
- システム足場の検討
- 単管足場の検討
- 風荷重の算出
- 風荷重の検討
足場の強度計算をゼネコンの現場監督が最初から行う機会は確かに少ないです。資材リース会社に計算してもらい、その計算書をチェックすることがほとんどだと思います。私自身、リース会社から受け取った計算書のチェックをしたことしかありません。
しかし、本記事で紹介したExcelシートを使用すれば、計算書のチェックを一瞬で終わらせることができます。仮にリース会社から計算書を受領するのが遅くなったとしても、自力で作成することが可能です。計算原理を理解した上で使用すれば、間違いなく業務の生産性は向上します。
建設業界では、深刻な人材不足と働き方改革により、生産性の向上が求められています。この記事によって、少しでも日々の業務効率が向上すれば嬉しいです。一緒に業務のICT化をどんどん進めて建設業界を盛り上げていきましょう!
型枠支保工の強度計算方法は、以下の記事で解説しています。計算を自動化するExcelシートのダウンロードも可能です。