- 橋梁上部工の現場監督になったんだけど…
- 橋梁工事は未経験だから不安
- PC橋の施工手順を具体的に教えて!
土木施工管理の仕事をしていると、未経験の工種の現場監督になることがあります。施工手順がなかなか分からず苦労している方も多いはず。
私がゼネコンに入社して、最初に配属になった現場はPC橋でした。橋梁がどのような工程ででき上がるのかイメージできず、頭を抱える毎日。何度も失敗を繰り返し、たくさんの遠回りをしながら仕事を覚えました。
そこでこの記事では、橋梁工事未経験者でも迷わずに施工管理業務ができるように、PC橋の施工手順を分かりやすく解説します。この記事を読めば、「橋梁がどのような工程でつくられるのか」が分かります。
私がPC橋の現場監督として培ってきた経験をまとめました。橋づくりについて詳しく知りたい方は最後まで読んでください。
【仮設工】本体構造物を構築するために準備する工程
橋梁に関わらずどの工種でも同じですが、まず初めに本体構造物を構築するための準備をする必要があります。いわゆる仮設工です。土木構造物が新たに建設される場所は、条件が様々です。橋梁であれば海や河川敷、ダムやトンネルなら山の中。いきなり構造物の構築を始められるような場所ではありません。
仮設工は大きく2つに分類することができます。
- 共通仮設工事
- 直接仮設工事
前者は、工事全般に関わる仮設工事です。特定の工程で役目を終えるのではなく、工事の着工から竣工まで必要な仮設を指します。後者は、各工程毎に必要な仮設工事です。設置期間が限定され、一般的には撤去されるものになります。
共通仮設工事
共通仮設工事は、以下の手順で行います。
- 計画
- 仮囲い
- 整備
計画
まず初めに、共通仮設工事の計画を行います。共通仮設は着工から竣工までの工事全体を通じて必要なものです。工程全体を考えた上で、適切な計画を行いましょう。計画が終われば、どこに何を設置するのか分かるように図面を作成します。共通仮設の計画を行う上で重要な点を下記にまとめます。
- 資材の管理がしやすいか
- 現場に出入りする作業員数はどの程度か
- 第三者への配慮はできているか
仮囲い
仮設計画で作成した図面を元に、現場の仮囲いと整備を実施します。
仮囲いとは、工事期間中に工事現場の周囲に設ける囲いのことです。仮囲いの方法としては、下記が挙げられます。現場の条件に応じて、適切な方法を選択します。
- 単管杭+オレンジネット
- フラットパネル
- 鉄ピン+トラロープ
整備
仮囲いと並行して、ヤードの整備を行います。以下は、橋梁工事に限らずどの工事でも必要な整備です。
- 休憩所や倉庫の設置
- カラーコーンを用いた安全通路の整備
- キャスターゲートや単管バリケードの設置
仮囲いや整備などの共通仮設工事で必要な資機材は、下記の記事でまとめています。
直接仮設工事
直接仮設工事の例としては、下記が挙げられます。
- 伐採工
- 盛土工
- 大型土のう工
- 袋型根固め工
- 仮桟橋工
- 足場工
伐採工
雑草が生い茂っている場所は、草刈り機で除草します。伐倒木は、チェーンソーや重機を用いて切り倒して集積。伐り倒した木の根は、重機によって掘り起こします。ダンプに木と根を積み込んで、搬出を行います。
伐採工の施工管理については、下記の記事で解説しています。
盛土工
盛土工では、岩ズリなどを重機で盛りあげます。計画の高さよりも低い地面をかさ上げするのが目的です。ダンプで運んできた岩ズリを荷下ろしし、バックホウで平坦に敷きならします。敷きならした後は、コンバインドローラーで転圧します。
盛土工の施工管理については、下記の記事で解説しています。
大型土のう工
大型土のう工は、耐候性大型土のう袋に土砂を入れたものを敷き並べる工事です。河川敷などで見かけたことがある人も多いはず。私が担当した工事では、河川敷を拡幅するために実施しました。
大型土のう工の施工管理については、下記の記事で解説しています。
袋型根固め工
袋型根固め工は、河川護岸や橋脚の根固めを目的として実施する工事です。あらかじめ制作された袋材に、現地発生の骨材やコンクリート塊、もしくは割栗石等を充填したものを使用します。先述の大型土のうを河川から保護するために設置しました。
袋型根固め工の施工管理については、下記の記事で解説しています。
仮桟橋工
河川や山などで、工事用の道路や作業スペースを確保する手段の一つに、仮桟橋の施工があります。橋梁上部工工事に着手する前に設置し、工事が終わったら撤去する架設の構造物です。仮桟橋の施工では、大型のクローラクレーンとバイブロハンマーを用いて、支持杭を打ち込むのが最も一般的。打ち込んだ支持杭の上に下部工と上部工を架設して、仮桟橋が完成します。仮桟橋は、河川での橋の架け替え工事で、迂回路として使用されることも多いです。一度は見たことがある人も多いはず。
仮桟橋工の施工管理については、下記の記事で解説しています。
【足場工】高所作業のために足場を組立てる工程
足場は、高所での作業を行うために設ける仮設の作業床およびこれを支持する仮設物のことを言います。橋梁を施工する上で、高所作業はほぼ必須です。今後の施工をスムーズに進めるために、適切な足場を計画した上で組み立てます。
足場工の施工管理については、下記の記事で解説しています。
【型枠支保工】型枠を支える仮設構造物を組み立てる工程
型枠支保工は、コンクリート構造物の施工にあたり、コンクリートが基準強度を発現するまで仮に支えておく仮設構造物のことです。コンクリートの荷重を十分に支持できる構造が求められます。基礎地盤から本設構造物の底版を支持できる高さまで支保工材を組み立てる工程です。
型枠支保工の施工管理については、下記の記事で解説しています。
【型枠工】コンクリート打設前に構造物の型をつくる工程
型枠工は、コンクリートの出来型を決める最も重要な工程の一つです。組み立てた型枠の中にコンクリートを流し込むことで、構造物ができあがるからです。PC橋特有の躯体付属物(PC定着部突起・デビエーターなど)も加工した型枠の出来に左右されます。2次元の図面を正しく読み解いて3次元に組み立てる技術が求められる工程です。
PC橋における型枠組立の作業手順は下記です。
- 型枠加工 : 型枠を加工する
- スラブ枠設置 : スラブ枠を桟木で固定
- 墨出し : スラブ枠に位置出し
- 型枠建て込み : 墨に合わせて枠の組立
- 型枠固定 : バタ材等で締め込み固定
- 通り調整 : 型枠の線形を合わせる
- 面木取付 : 面木を型枠に取付ける
特に橋梁特有の作業はありませんが、図面を入念に読み込んで理解しておく必要があります。
正しく墨出しをして型枠を組み立てないと、鉄筋工やコンクリート工にも支障がでるからです。
型枠工の施工管理については、下記の記事で解説しています。
【鉄筋工】鉄筋を組み立てる工程
鉄筋工は、配筋図どおりに鉄筋を加工して組み上げる工程です。橋梁に限らず、鉄筋コンクリート構造物をつくる上では必要不可欠な作業です。正しく並べられた鉄筋によって、構造物に作用する活荷重を支えることができます。特に橋梁は、複雑な形状の鉄筋を多く使用します。
PC橋で使用する鉄筋の種類としては、以下が挙げられます。
- 主筋 : 荷重を処理する鉄筋
- 配力筋 : 荷重を主筋に配る鉄筋
- スターラップ筋 : 剪断力を処理する鉄筋
- 段取り筋 : 配筋作業のための鉄筋
- 馬筋 : 上面の鉄筋を載せるための鉄筋
- ハンチ筋 : ハンチ部を補強する鉄筋
- 幅どめ筋 : 位置を保持するための鉄筋
- 棚筋 : PC鋼材を保持する鉄筋
段取り筋は鉄筋かぶり内で使用するので、エポキシ樹脂加工を施した鉄筋を用いることが一般的です。
【PC鋼材設置工】PC鋼材を設置する工程
PC橋の施工では、鉄筋工と並行してPC鋼材の設置を行います。ポストテンション方式の場合、コンクリート打設後にPC鋼材を緊張する必要があるからです。棚筋などを使うことによって、図面で決められた高さにPC鋼線を保持します。PC橋では、以下に列挙するPC鋼材を使用します。それぞれが、コンクリートに圧縮力を加えるために必要不可欠です。
- 外ケーブル
- 内ケーブル
- 横締ケーブル
- 鉛直鋼棒
上記の各PC鋼材を設置する作業手順について説明します。
外ケーブル
コンクリート部材の外部に設置するPC鋼材を外ケーブルと言います。外ケーブルはコンクリート打設後に挿入しますが、部分的にコンクリート内部を通過する箇所があります。PC鋼材設置工では、外ケーブルが通過する横桁やデビエーターに偏向管を設置します。
内ケーブル
コンクリート部材の内部に設置するPC鋼材を外ケーブルと言います。内ケーブルも外ケーブルと同様、コンクリート打設後に挿入します。内ケーブルはコンクリート内部を通過するので、部材内を通過する一本の通り道が必要になります。PC鋼材設置工では、内ケーブルをコンクリート内部に通すためのスパイラルシースを設置します。
横締ケーブル
橋軸直角方向にプレストレスを加えるため、横桁や床版に設置するPC鋼材が横締ケーブルです。アンボンドPC鋼線と呼ばれる、プレグラウトされたPC鋼より線を用いるのが一般的。シース内に未硬化の樹脂またはグラウトがあらかじめ充填されており、ケーブル緊張後にグラウトの必要がないのが特徴です。横締ケーブルは、鉄筋と同様にコンクリート内に打ち込みます。
鉛直PC鋼棒
橋の鉛直方向にプレストレス力を導入するために設置するPC鋼材を鉛直PC鋼棒と言います。支点付近の大きなせん断力に対処し、斜引張ひび割れの発生を抑制することが可能です。鉛直PC鋼棒も横締ケーブルと同様、コンクリート内に打ち込むため、コンクリート打設前にあらかじめ設置しておく必要があります。
【コンクリート工】コンクリートを打設する工程
鉄筋、PCを型枠内に設置し終えれば、いよいよコンクリート打設です。コンクリート工は、下記の手順で行います。
- 圧送
- 締め固め
- 表面仕上げ
- 養生
コンクリート圧送
コンクリート工場から生コン車によって搬入された生コンクリートを、ポンプ車を使用して型枠内に圧送して打ち込む工程です。生コン圧送には、ポンプ車からブームを延ばすブーム式と、ポンプ車に管を繋いで送り込む配管式があります。コンクリート打設の範囲や高さに応じて、適切な方法が選ばれます。
橋梁の場合は、PC定着部突起や箱桁のウェブ部分など、部材厚が小さい上に鉄筋が密になっている場所があります。隅々まで生コンを充填できているかの確認が重要です。
コンクリート締め固め
圧送後は、バイブレータを使用して入念に締め固めます。生コンを圧送しただけでは、型枠どおりにコンクリートを充填させることはできないからです。コンクリートからエアが抜けるまで、しっかりとバイブレータをかけます。
コンクリート圧送時と同様に、鉄筋が密になっている部分には注意が必要です。外径が小さいバイブレータを使用するなどの工夫をして締め固めます。
コンクリート表面仕上げ
コンクリートの締め固め後、左官屋さんがコンクリート表面を平坦にならす工程です。他のコンクリート構造物と同様に、トンボやコテで表面を綺麗に仕上げます。橋梁上部工は打ち継ぎ箇所が多々あるので、仕上げと並行して打ち継ぎ目の処理を行います。例えば、硬化を遅らせる遅延剤の散布です。翌日に高圧洗浄機でレイタンスを除去して、打ち継ぎ箇所の目荒らしを行います。
コンクリート養生
コンクリートが硬化するまで、適切な環境を保つために養生を行います。例えば、散水養生や給熱養生です。前者は養生マットを敷いて散水を、後者は防炎シートで打設箇所を囲って温風の送付をそれぞれ行います。橋梁の形状に応じて、養生方法を適宜選択することが重要です。
【PC鋼材緊張工】PC鋼材を緊張してプレストレスを導入する工程
コンクリート打設後、一定の圧縮強度を確認できた段階でPC鋼材の緊張作業を行います。PC鋼材の緊張によってプレストレスを導入し、ひび割れを防ぐことが目的です。PC鋼材緊張工は、以下の手順です。
- PC鋼材挿入
- PC鋼材緊張
- PC鋼材端末処理
PC鋼材挿入
PC鋼材の緊張を行う前に、あらかじめ設置した偏向管やスパイラルシースに鋼材を挿入します。径間の長い橋梁の場合、50m以上のPC鋼材を使用するので、人力での挿入は大変です。ウィンチなどの動力を使用して、PC鋼材を引き込むことによって、挿入作業を行います。
PC鋼材緊張
PC鋼材をコンクリート内に挿入し終えたら、PC鋼材に緊張力を加えます。PC鋼材の端部に油圧ジャッキを取り付けて、ジャッキが伸びる力を利用して緊張するのが一般的です。圧力と鋼材の伸びを計測することで、適切な緊張力を与えているかどうかを管理します。緊張力を解放すると、PC鋼材には元の長さに戻る力が作用します。その力を端部に取り付けた定着具で受け止めることで、コンクリートにプレストレスを導入することが可能です。
PC鋼材の緊張によって、型枠から構造物が浮き上がるほどの力を作用することができます。
PC鋼材端末処理
緊張を終えた後は、桁端部から飛び出したPC鋼材の切断を行います。油圧ジャッキを取り付けるためにPC鋼線は長めに挿入されており、必ず余長が生じるからです。PC鋼材は鉄筋よりも硬いので、専用の砥石を取り付けたグラインダーで切断します。切断後は、グラウトキャップの取り付けや錆止めの塗布など、適切な端末処理を実施します。
【グラウト工】シースとPC鋼材の隙間にモルタル打設する工程
グラウト工では、PC鋼材の緊張後に、シースとPC鋼材の隙間に無収縮モルタルを打設します。グラウト工の目的は下記です。
- PC鋼材を腐食から保護する
- PC鋼材とコンクリートを一体化させる
PC鋼材の腐食が進行すると、破断する恐れがあります。また、PC鋼材とコンクリートの付着が不十分だと、構造物の耐久性を損ないます。以上のとおり、橋梁の品質を向上する上でPCグラウト工は必要不可欠な工程です。PCグラウト工の作業手順を以下に示します。
- グラウト材練り混ぜ
- グラウト注入
グラウト材練り混ぜ
グラウトミキサーを用いて、グラウト材と水を練り混ぜます。回転翼式のミキサーを使用するのが一般的です。グラウト材と水の比率は、気温や水温によって決まります。コンシステンシー試験を行い、無収縮モルタルの流動性能と強度を管理することが重要です。
グラウト注入
高品質の無収縮モルタルを練り混ぜ終えたら、グラウトポンプを使用してシース内にグラウト注入を行います。注入時は、グラウト流量計を通すことで、注入圧力と流量などのデータを記録します。必要量のPCグラウトがシース内に充填されたことを確認する必要があるからです。
【解体工】型枠支保工を解体する工程
コンクリート工を終えて、所定の条件を満たした段階で型枠支保工材の解体を行います。型枠支保工解体時期はコンクリート部材によって異なるものです。コンクリートの種類や材齢、圧縮強度によって解体時期が決定されます。
型枠解体時は、コンクリートの仕上がり具合を確認します。
例えば、ジャンカやコールドジョイントの有無です。
【まとめ】PC橋の施工手順
本記事では、PC橋の施工手順を紹介しました。
- 仮設工
- 型枠支保工
- 型枠工
- 鉄筋工
- PC鋼材設置工
- コンクリート工
- PC鋼材緊張工
- グラウト工
- 解体工
本記事を読んで、橋梁工事未経験者でも、PC橋の手順を知ることができたと思います。ぜひ、施工管理業務に役立ててください。